Forest and River

森のこと、川のこと

神崎川水系ジュルミチ谷

前回に続いて、神崎川水系の支流に入りました。その名もジュルミチ谷。カタカナ表記のすごい名前の谷ですね。「ジュルミチ」にはどんな意味があるのか、さっぱり分かりません。この地域では、道に雨が降ってぬかるんでいることを「ジュルイ」と表現することがあります。だから「ジュルイ道」?いや、さっぱり分かりません。

ジュルミチ谷は、車を降りてすぐ、という場所にありません。まずは車で高度を上げながら林道終点付近まで行き、そこから登山道を通って一気に神崎川本流方向へ斜面を下ります。登山道を約30分下ると、ようやくジュルミチ谷に到着。

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前回の仙香谷よりは、テンカラに向いていそうな谷です。しかし、相変わらず白い花崗岩がゴロゴロ。川底もきれいすぎます。さて、イワナはいるのだろうか・・・

とりあえずは竿を出さず、魚の姿を探して川を上ります。しかし、上れども上れども、魚影が見えません。「ここならいるだろう」と思う場所でも、本当に魚影なし。これは今回ボウズだな・・・

時間はもう11時。今から引き返して別の谷に入ろうかな・・・しかし、せっかく30分もかけて山道を下りてきたのだから、もう少し奥に行きたい気もするし・・・どうしようかと迷いながらも、少しずつ川を上っていきます。

魚影がないのは、魚がいないのではなく私のアプローチが下手で先に逃げているのかも知れない。あるいは、すでに誰かに釣られてしまったのかもしれない。いるはずの場所に魚の姿が見えないと、ついついそんな「言い訳」を考えながらダラダラと上っていってしまいます。

そうこうしているうちに、もうお昼。とりあえず、一旦昼食休憩としますが、この後どうしようかなあと迷います。この先、魚はいるだろうか?しかし今から戻っても、もう他の谷に入る時間はないし・・・

でもこの谷、ここまで歩いているとたまに良いポイントがあり、この先もそういうポイントがありそうな気もします。せっかくだし続行!というわけで、昼食後は竿を出して、いそうな場所に手当たり次第毛鉤を入れていくことにしました。

すると、やっと1匹いた!いかにもというところで、流下するエサを待っています。ところがこのポイントは倒木やらの障害物があって、毛鉤を入れたとしてもそのあと竿を上げるのが難しい。う~んどうしようと探っている間に、魚に気付かれてしまい、サッと隠れてしまいました。残念。

しかし、魚がいることが分かったので、一気にやる気が出てきました。よし、この先もしらみつぶしに毛鉤を入れていこう!

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そんな風に竿を振り続けて、こんな小さなポイントにたどりつきました。小さいけど、ここはいるんじゃないの!?と思って毛鉤を毛鉤を入れたら・・・

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やった!13cmと小さいけど、イワナイワナです!いや~ありがとう!撮影後すぐにリリース。

その後も竿を振りますが、残念ながらこの後は釣れず。まあ1匹釣れただけで良しとします。

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だいぶ上りましたが、今回はここで折り返し。

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それにしてもこの谷は、周囲を岩に囲まれている場所が多く、植物にとっては非常に厳しい環境です。写真の木なんて、岩から直角に生えています。

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この岩の上の木は、根を伸ばす場所が岩肌しかないので、岩盤に絵を描くように根を張り巡らしていました。

こんなふうに、川岸が険しい場所が多いので、滝などがあるとかなり迂回しないと遡上できません。じつは上っていく途中、滝を迂回するために山の中に入ったのですが、これがもうものすごいブッシュで、「いや~下りる時はここを通りたくないなあ」と思いながら上ってきました。

で、釣りを終えて川を下りる時、迂回した滝のもっと上流で、山の中に入れそうな獣道を発見。地図を確認すると、ここから山の中に入って等高線沿いに歩いて行けば、川を下りる時に通ってきた山道に戻れそうです。

ただし、谷から外れないといけないので、道に迷う可能性もあります。いつもは、常に谷を流れる水音が聞こえる範囲で迂回するので、道に迷う心配はあまりないのですが、今回は一度完全に山の中に入る必要があります。

けれど、さっきのブッシュをもう一度通りたくないなあ・・・という気持ちの方が強かったので、山の中を行くことにしました。まともな道は無いので、紙の1/25,000地形図と、登山アプリのYAMAPと、勘が頼りです。

山中に入り、谷から外れていくにつれて、水の音がまったくしなくなりました。山の中はおそろしく静かです。

何度も地形図を確認しますが、実際の山の中は地形図に表れない微妙な起伏が多数あり、「たぶん大丈夫だろう」ということしかわかりません。ブッシュよりましとは言え、木がたくさん茂っているところを、かきわけながら進みます。

さすがに、ちょっと不安になってきました。等高線に沿って進む予定なのに、先を急ごうとすると、人間はどうしても斜面を下ってしまいます。あせっているので、段差を越える時にノイバラと知らずに木を握ってしまい、思わず悲鳴をあげました。暑くて汗をかいているのか、不安で冷や汗をかいているのか分からなくなってきました。

今から、もと来た道を戻るか?振り返りますが、そもそも道がないところを歩いてきたので、戻るのもたいへんそう。それでも戻るか、このまま進むか・・・?

このまま進んで、予定している場所に出られる自信は80%あります。しかし、20%は不安。逆に言えば、遭難する確率が20%。さあ、どうする!?ちょっと立ち止まって考えます。

その時、ふと地面に目をやると・・・

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何と目の前に鳥の死体があります。カケスです!

まるで眠っているかのような、まだとてもきれいな身体で地面に横たわっていました。カラスの仲間のカケスは、見た目はカラスと全然違いますが、「ジャー!」と大きな声で鳴くので、山の中ではよく鳴き声を耳にします。しかし、姿はなかなか見えません。

そんなカケスを、この広い広い山の中で、たまたま迷い込んで、たまたま立ち止まった場所で見つけるなんて!

カケスの青い羽はとてもきれいなので、たまたま羽が落ちていれば宝物にします。道に迷ったかもしれないということも忘れて、しばしカケスの死体を見つめました。

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とても美しい青い羽を、1本抜かせてもらおうかと思ったのですが、何だか失礼な気がしてやめました。穴を掘って埋めてやろうかとも思ったのですが、この死体を貴重なエサにする生き物もいるはずだと考えて、そのまま置いておくことにしました。

本当に、こんな山の中で、よくぞこんな出会いが!ありがとう、カケスさん!

で、我に返って、さてどうするか・・・決めた!このまま進もう!なぜか、何の迷いもなくそう決断できました。

そのまましばらく進むと、最近アセビを伐採した跡がいくつか見つかりました。おっ、人の痕跡だ。さらに進むと植林地に入り、そこにも伐採されたばかりのアセビがあります。お、近いぞ。そして間もなく、予定通りの山道に出ました!

きっと、カケスに出会って落ち着いたことが良かったのだと思います。そういえば、日本神話で、山中で神武天皇の道案内をしたのはヤタガラスでしたね。