Forest and River

森のこと、川のこと

4シーズン目終了

仕事には、こちらの都合で日を設定できるものと、こちらの都合と無関係にこなさなければならないものがあります。9月最終週は、こちらの都合がきく仕事はできるだけ入れないようにしているのですが、都合に関係なく入ってくる仕事は当然あります。

そんな中でも、今年は漁期の最終日、9月30日だけがすっぽりと空いていました。ただ、この日急に仕事が入ることも当然あるので、祈るような気持ちでその空きが続くように過ごしていました。9月27日、28日と日が進みましたが、まだ30日は奇跡的に空白。これはもしや、最後の最後に行けるのでは!?

そして9月29日、明日は急ぎの仕事がなさそう!おまけに天気も良さそう!よし、休むぞ!というわけで、漁期最終日、今シーズン最後の渓流釣りを楽しみに行きました!

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シーズン最後に、どの谷に入るか・・・?いつも悩みます。

好きな谷(歩いていて気持ちよく、イワナもそこそこいる谷)に入れれば良いのですが、だいたい9月30日は、みんな最後に釣りたいので、どの谷もすぐにふさがってしまうのです。早起きして行ければ良いのですが、私は家族を見送ってからの出発になるので、どんなに早くても現地に着く時間は8時30分過ぎ。

いつもなら、その日一番行きたい谷を第1候補地として、そこに先行者がいた場合に備えて第2候補地を考え・・・と、第3候補地くらいまで考えておけば十分ですが、今回は念には念を入れ第7候補地まで考えました。

今回第1候補地に挙げたのは、舗装道路沿いで入渓が容易な、ある意味メジャーな谷を選択。メジャー過ぎるので、みんなもっと違う谷に入るかもという裏をかいた作戦ですが、もはや賭けのようなもの。

車を運転しながら、その谷に通じる道を進みます。途中「いつもこんな所には車無いぞ!」という場所にまで駐車している車を2台見かけました。やはり最終日は圧力高し!これは無理かも・・・

さあ、第1候補地の谷の入り口に近づいてきました。どうかな?どうかな?

空っぽです!誰もいません!というわけで、素早く車を停めて、釣りの支度を始めます。準備完了、さあ入渓しようと沢に降り始めたら・・・徐行して、こちらを恨めしそうに(?)見ながら通過していく車あり。たぶん釣り人。こちらがあと5分遅ければ先を越されていたかもしれません・・・

通過していった車には悪いですが、入渓できたことに感謝し、4シーズン目最後の渓流をたっぷり楽しもう!とりあえず、竿は出さずに目指す場所まで、ひたすら谷を上っていきます。朝夕は少し肌寒くなってきたとはいえ、まだ蒸し暑さが続いているので、動いたらとたんに汗が噴き出してきました。

歩き始めて約20分後、ようやく竿を出します。しばらく毛鉤を投げていると、1匹、2匹と順調にかかりはじめました。前回お持ち帰りしたので、今回は純粋にテンカラを楽しもうと、すべてリリース前提でテンポ良く釣り上がります。

3匹釣ったあと、中途半端な難所にさしかかりました。中途半端というのは、竿を畳もうか竿を持ったまま越えようかと迷うような場所です。だいたい、迷うような場所は竿を畳む方が良いのです。それはわかっているのですが、今回は最終日、時間も惜しいので、竿を持ったまま越えることにしました。

竿を持ちながら斜面を登る時に注意しないといけないことは、急に足を滑らせて反射的に手をつく時に、手の下に竿が下敷きにならないようにすること。そう、まさに今みたいな所は注意しないと・・・と思って十分注意していた矢先、ズルッと足が滑り、思わず竿を握っていた方の手をついてしまいました。すると・・・

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あ~!何ということ!まだ買って日の浅いパックテンカラの、しかも一番スペアパーツの価格が高い竿元を折ってしまいました!だから竿を畳めと言っただろうが!と、もう一人の自分。こういうのが一番腹立たしい。うぉ~!と、思わず叫んでしまいました。

しかし、折れたものはどうしようもない。スペアの竿(天平テンカラ3.3m)を持ってきているだけましです。これでスペアが無ければ、帰るしかありませんからね。

気を取り直して、再び毛鉤を投げていきます。

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やはり渓流は格別。竿を持って渓流に入るのは、来年の3月解禁日までありませんので、丁寧に、楽しみながら釣っていきます。

この後も、比較的小ぶりですが順調に釣り上がり、最終的に10匹の釣果でした。

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写真は、この日いちばんきれいだと思ったイワナ。20.5cmでした。白点にオレンジの点が混じります。しばらくは会えませんね。これから繁殖シーズン、たくさん子孫を残してくださいね。

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十分満足したので、竿を畳み、谷を下ります。

最後に少し山のことについて記しておきます。どこの山でも同じだと思いますが、近年は増えすぎたシカの影響で、ほとんど下草が食べられています。シカが悪いというより、山を使わなくなり、山に入らなくなった人間のせいだとも言えそうです。

結果として、シカが食べない植物ばかりが下に残ります。上の写真、びっしりと生えている低木は有毒植物のアセビ。群落を作っています。ちなみにこのアセビは、渓流沿いにも生えていますが、ハリスがひっかかるとからんで取れなくなる非常にやっかいな低木です。

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こちらではマツカゼソウやイワヒメワラビ(たぶん)など、シカの不嗜好性植物(シカが嫌いで食べない)が林床を覆っています。

下草が丸裸になるよりは、こうして草に覆われている方が、土砂の流出を食い止める上では役に立つと思うのですが、それでも一面に同じ種類の植物が生えている様子は、やはり異常ですね。

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渓流沿いには、かつての炭焼き窯跡があちこちに残っています。つい数十年前までは、ここで炭を焼くために人が来て、近くの石や土を集めて窯を作り、周りの木を切って炭焼き窯に詰め、炭が焼けるまでの間ここで寝泊まりし、焼けて軽くなった炭をかついで町へ売りに行くということがされていたのです。

炭焼き人は、もちろん食事も山の中でとっていたので、米などを担いで上がったほか、現地で山菜やキノコも調達したことでしょう。そして、きっとイワナも調達したはずです。私はきっと、この炭焼き人たちが、イワナの生息域拡大に大いに寄与していたのではないかと思います。

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炭焼き窯の近くには、当時の人たちが酒盛りをしたであろうビール瓶や一升瓶が、今も転がっていることがあります。このビール瓶には、下に「ンリキ」の文字が見えますがこれはもちろん「キリン」の昔の記載方法。戦前のビール瓶でしょうか。

燃料革命以前は、炭や薪は生活必需品でしたから、山にたくさん人が入っていた。当然、シカは怖がって人には近づきませんから、生息範囲も限られていたことでしょう。

それが今や、シカは恐れるべき人間が山にいませんから、自由に移動できます。シカは餌を食い尽くせば移動していくようなので、どんどん山から里に降りてきています。

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今回入った谷には、大きなサクラの木があちこちにあります。とりわけ大きいのが、上の写真のサクラ。胸高直径(胸の高さ≒地面から120cmの所の直径)で66cmくらいありました。カスミザクラかヤマザクラのどちらかでしょう。

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先ほどのサクラを、根元から見上げて撮った写真。太いですね~樹齢もかなり経っているはずで、おそらく炭焼きがされていた頃から生えていたはずです。

炭には、ナラやカシなどの堅い樹種を使うのが普通ですが、このサクラは炭焼き人に伐られず残ってきたわけです。炭の材料として適当でなかったため残されたのか、山で春を愛でるために残されたのか・・・理由はわかりませんが、この谷にはやたらとサクラの大木があるところを見ると、意図的に残されてきたのではないかと思えます。

さて、テンカラを始めて4シーズン目が終わりました。今シーズン釣りに行ったのは8回だけ・・・何とも少ない。渓流の年券が6,000円なので、1回当たり750円という計算になります。まあ、750円で1日楽しめればいいか、と考えるしかありませんが、行けるものなら毎週でも行きたい。

行ける回数が少ないと、どうしてもイワナがほぼ確実にいる谷に入ろうとするので、「幅」が広がりません。「この谷に入ってみたけど、タカハヤしかいなかった」というような経験も大切です。そういう渓流行ができるゆとりが欲しいなあと思います。

とは言え、今シーズンは少ない回数ながらも、とても貴重な経験をさせてもらいました。

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それは、4月に釣った34cmのイワナ!初めて尺超えイワナを釣ることができ、忘れられない思い出となりました。

渓流釣りは、携帯電波の届かない山奥に一人で行き、ひたすら谷を歩き、毛鉤を投げるだけのもの。どこまで歩くか、どこで引き返すか、いつ昼食をとるか、この危ない場所を通るか迂回するか、すべて一人で判断しないといけません。その代わり、自分だけが味わえる風景があり、音があり、魚との出会いがあります。素晴らしい時間です。

来シーズンも行けることを願って、今年は竿を畳みましょう。