Forest and River

森のこと、川のこと

イワナ稚魚放流

愛知川の上流では、毎年3月前後にアマゴやイワナの放流が行われます。この時期の放流には2種類あり、大きさ20~30cmに育った成魚の放流と、1月頃に孵化したばかりの3cmにも満たない稚魚の放流です。

成魚は、漁協が醒ヶ井養鱒場から購入し、本流筋をメインに放流されます。

一方稚魚は、地元の池田養魚場で秋に採卵され、孵化した稚魚を、源流域に放流します。愛知川の元をなす御池川、神崎川、茶屋川の3つの河川のさらに支流、数十箇所に分散して放流するのです。

私はこの稚魚放流のボランティアに、3年前から参加しています。今シーズンは2回ボランティアに参加する予定ですが、その1回目を、3月16日(土)に行ってきました。

源流への稚魚放流のやり方はこうです。

朝、池田養魚場に行くと、その日参加するボランティアの人たち一人ずつに、今回の放流先が割り当てられます。「〇〇谷に行ってくれ。〇〇谷はだいぶさかのぼると、大きな滝があるから、滝を上ってから放流をしてくれ。」という具合です。

ボランティアのみなさんは、源流での釣りに慣れた方たちばかりなので、「じゃあ俺は〇〇谷に行くよ」「ではボクは××谷へ」という具合に、ホイホイと決まっていきます。

しかし、釣りをしていなかった昨年までの私には、まずその「〇〇谷」がどこにあって、どうやって入川し、その滝までどれくらいかかって、どうやって滝を上れば良いのか・・・こういうことが、まったく分かりませんでした。

他のボランティアの人たちに入川口まで誘導してもらったり、滝を上るには右岸からが良いのか左岸からが良いのか、取り付き場所はどこにあるのかなどを教えてもらってから放流に行っていました。

基本的に放流は単独行で、源流域はもちろん携帯電話の圏外なので、最初にちゃんと情報を入れておかないとどうしようもありません。そういう私なので、昨年までは源流域の中でも比較的簡単に行ける谷をあてがってもらっていました。

しかし、昨シーズンよりテンカラを初めて約1年。この間、愛知川のたくさんの谷に入りました。で、たまたまですが、16日の放流先は、私が行き慣れた谷の名前ばかり出てきたのです。いや~嬉しかった!やっとみなさんと会話ができるくらいになってきた!

で、今回、「少しキツいけど、A谷に行って、滝を越えたら放流してや」と言われました。滝はまだ1回しか越えていないけど、A谷にはテンカラで何度も行ったので、谷の詳しい情報を聞かずとも「了解です!」と返事ができるようになりました。

さて、稚魚放流はアマゴから始まり、次にイワナです。暖冬の今年は稚魚の成育も早かったので、アマゴの稚魚放流はすでに終了。この日はイワナの稚魚放流です。

稚魚放流は、1人当たり約1,000匹のイワナをかついで行きます。多い人で2,000匹。大体ですが、1匹の稚魚は1gなので、1,000匹で1kg。これを45リットル程度の厚手のポリ袋に水と共に入れ、酸素でパンパンに膨らませて口をきつく縛った状態で持ち運びます。水の量は、たぶん5リットルくらい?というわけで、イワナ1,000匹と合わせて6kgくらいの重量になります。

f:id:forest_and_river:20190317125159j:plain

ポリ袋に入ったイワナたち。

45リットルのポリ袋に空気をパンパンに入れてあるので、かなり容積が大きくなります。50リットルのザックにこの袋を入れて、あとは食糧や水筒を入れると、ザックはもういっぱいです。

ところが今回は、ボランティアの人数が少なかったこともあってか、1人3,000匹!の割り当て。つまり総重量は8kg。いや、重量はあまり問題ではないのです(確かに重いけど!)。6kgだろうが8kgだろうが、一番困るのは袋の中に入れた水が、歩くたびにタポタポと前後左右に揺さぶられるので、そのせいでザックが大きく揺れ、岩や急傾斜地を歩くときにとてもバランスが取りにくいことです。

f:id:forest_and_river:20190317125434j:plain

さて、谷に到着。滝を越えるまでは脇目も振らず、ひたすら上っていきます。すると、上流に釣り人が・・・

こういう時、私も釣りをしていたなら、先行者を優先して追い抜かないのがルールです。しかし、今回は稚魚を放流しに行かねばなりません。ポリ袋の酸素の量は、もっても2~3時間と言われていますから、早くあがらないといけません。

そこで、申し訳なかったのですが、釣り人に事情を説明し、先に行かせてもらうことにしました。そしたらその方も、「私も先週稚魚放流に来たんですよ」と仰ってくださったので、すんなりと事情を飲み込んでいただき、先行させていただくことに。

その時に私は、「この先の滝の上まで行ってから放流開始します」と伝えたら、「え!あの滝の上って行けるんですか?」と。「ええ、だいぶ手前から迂回すれば上れますよ。ただ、滝を越えてからとても危ない箇所がありますけど。」と言って、先に行かせてもらいました。

f:id:forest_and_river:20190317225445j:plain

その危ない箇所というのがこちら。

赤い点線のところに、幅20cmくらいの獣道がありますが、その周囲には手掛かりになるような樹木がなく、急傾斜でズリやすい斜面を横断していかねばなりません。写真ではそれほど急傾斜でないように見えますし、右下の谷に落ちたとしてもたいしたことなさそうに見えますが、獣道から谷までの高低差は7~8m、場所によって10m近い高さがあり、足を踏み外せば一気に谷へ・・・と考えただけで足がすくむ人には絶対お勧めできません。

さて、稚魚が入った50リットルのザックをかついでこの危ない箇所も無事に越せました。そろそろ放流を始めても良いのですが、まだまだ泳ぐ力の弱い稚魚は、放流地点から自力で上流に行くことはまず無理で、どんどん落ちていく他ありません。ですから、少しでも上流に放流してあげたいと思うので、もうちょっと上ろう、あと少し上ろうと、どんどん上っていきます。

もちろん、上なら良いというものでもなく、放流するポイントも大事です。稚魚が流されてしまうほどの速い流れでなく、一方で酸素を含んだ水が常に供給される程度の流れが必要です。源流部は小さな落ち込みが連続する場所が多く、放流された稚魚は、しばらくそのポイントで生きていかないといけないので、そこそこの広さも必要でしょう。

f:id:forest_and_river:20190317230456j:plain

で、やっと「ここなら」という所まで来たのが上の写真。手前に稚魚の入ったポリ袋を置いています。放流前にしばらく袋を水につけて、水温に馴らしてあげます。ここで袋の口を開いて、少しずつ放流しながら、さらに上流へ向かうことにしました。ちなみに右奥の白いのは残雪です。

ここからはポリ袋を手に持って上っていきます。パンパンに入っていた酸素は、ポリ袋の口を開ければ抜けてしまいますが、時々渓流のフレッシュな水を入れてあげるので問題なし。さあ、もっと上に行こう!と目を斜面に向けると・・・

f:id:forest_and_river:20190317232122j:plain

お!斜面を獣が歩いている。イノシシだ!この写真には写っていませんが、全部で4頭。先頭と最後尾が大人(メス)、中央2頭が子ども(昨年生まれたので、もはや“瓜坊”ではない)の一列縦隊で歩いています。源流で釣りをしていると、シカやサルにはたまに出会いますが、イノシシはヌタ場や足跡こそあっても姿を見かけることはまずありません。初めて野生のイノシシを見ました。

そのうち、先頭のイノシシが私に気付き、子どもたちを回れ右させて別の方向へと去って行きました。遠かったので、のんきに写真など撮っていましたが、子連れのイノシシに近くで会っていたらと思うと、ちょっと怖いです。

さて、イノシシも去ったので再び放流のため遡上していきます。途中、いかにもイワナのいそうな落ち込みなどを見かけると、ついつい魚影を探してしまいます。おっ!いた!でも放流しないといけないので、先を急ぎます。そんなことを何度か繰り返しながら上がっていたのですが、「あそこには絶対いるだろう」と思うような場所を発見。

これは釣ってみたい!と思い、ザックに1本忍ばせておいた3.3mの竿を出します。仕掛けはポケットに入れておきました。エサ釣りなどに比べ、仕掛けと竿だけのテンカラって、こういう時にすごくいいですよね。

稚魚の入ったポリ袋を水に浸けておき、さて手前から探ってみようかな、と毛鉤(#13)を入れると・・・

f:id:forest_and_river:20190318224056j:plain

何と、釣れた!とっても小さいですが、きれいなイワナ!メジャーは持っていなかったのですが、だいたい11cmくらいです。写真だけ撮ってすぐにリリース。

渓流釣りの本などでは、ポイントの手前から釣っていけば、同じポイントでもその上流側でまた釣れる、とありますが、今までそんな経験はしたことありません。たぶん、釣ったあとドタバタと動いたりするから、いても逃げてしまうのでしょう。

で、今回はこの11cmを釣って、静かに下流にリリースしたあと、もう一度先ほどのポイントに投げてみました。そしたら何と、また釣れた!今度は約20cmのイワナ

しかしこのイワナバーブレスフックなのにめずらしく針を飲んでしまい、針を外してあげるのに手間がかかってしまったので、早くリリースしてあげないと、と思い写真も撮らずリリースしてしまいました。

いや~やっぱり手前から丁寧に探っていけば、同じポイントで複数釣れるんだな、と納得。今度から丁寧に釣ろう。

f:id:forest_and_river:20190318225159j:plain

さて、放流はここで最終としました。

f:id:forest_and_river:20190318225309j:plain

放流したばかりのイワナを、水中で撮影(OLYMPUS TG-5)。こうやって、水底の石に張り付くようにじっとしています。これからは一人で、がんばって生きて行くんだぞ!3,000匹の放流終了!

ここでお昼ご飯。下流側を向いて、のんびり食事をとっていると、かなり下流の方に人影が見えます。あ!さっき先行させてもらった釣り人だ。滝を上ってきたんだ。でも、私が川を荒らしたのであまり釣れなかっただろうな。ここまで来たら、「この先はもう放流しないので、存分に釣り上がってください」と言ってあげよう。

と思って待っていたのですが、姿が消えました。待っていても一向に姿が見えません。あの人もお昼ご飯かな?まあ、降りた時に会うだろうと思い、私は川を下ることにしました。荷物を背負って、忘れ物はないかな、とチェックしたら・・・あれ?ランディングネットが無いぞ!ザックの後ろに、マグネットで付けていたのですが、どこかで外れてしまったようです。うわ~これは探すのたいへんだ。

と思って、とにかく歩いてきたルートをたどって下りることに。しばらく下りると、先ほどの釣り人が上ってきました。その人のザックには、私のランディングネットが!

「これ、落ちてましたよ」「いや~!ありがとうございます!」

本当に感謝です!

そしたらその人が、「いや、実は私もランディングネット落としてしまって・・・さっきから探してるのです」あーだからなかなか上ってこなかったのか。「一緒に探しましょう」と言って、その方が歩いた場所をしばらく行ったり来たり・・・しかし見当たりません。最後に休憩した時にはあったとのことなので、そこまで下りてみることにします。

するとその人が、「実はさっき、あなたに『危ない場所がある』と言われていた場所で滑落したんですよ」と!「え!ケガはなかったですか!?」「いや、手をちょっと・・・」と、手のひらに裂傷が。結構出血したようですが、今は止まっているようです。「それくらいで済んで良かったですね。下まで落ちたんですか?」「ええ、川まで一気に落ちました」「それは!10mくらいありますよ。本当にその程度で良かったですね」

そんな話しをしながら、その人のランディングネットを探しますが、やはり見当たりません。最後に確認したという休憩場所までたどり着いたのですが、結局見つからず。

「いや~私のは見つけてもらったのに、申し訳ない!」「いや、仕方ないです。でも良かったら、このまま滝を下りるのご一緒させてもらっていいですか?どこをどう歩けば安全なのか教えて欲しいので」「ええ、一緒に下りましょう」

というわけで、一緒に下りることに。獣道をたどりながら、その人が滑落した問題の場所に到着。斜面に、滑り落ちた跡が生々しく残っています。

「本当に川まで落ちたんですね。よく無事でしたよね!」

やっぱり、10m近くあります。で、ここをもう一度通らないと帰れないのですが、きっと先ほどの体験で恐怖心が芽生えていて足がすくむだろうと思ったので、「ちょっと、ここで待っていてください。ロープ張ります」と、持っていた8mm×20mの補助ロープを出しました。ロープをかける木も無い場所なので、むき出しになっている根っこにロープをくぐらせて、等高線に沿ってロープを張りました。

「いいですよ。ゆっくり来てください」

そして、無事に危険箇所を過ぎました。この後も、先ほどの危険箇所ほどではないにしろ、かなりの急傾斜が連続するので、ここでもロープを繰り返し張って、下りてもらいました。

f:id:forest_and_river:20190318232142j:plain

ロープはあくまでも補助なので、ロープに全面的に頼るのは良くないですが、ロープがあると無いとでは全然安心感が違います。ザックから出したり、くくったりほどいたりするのが面倒ですが、やはり安全第一。私もこれからは、手間を惜しまずロープを使おうと思いました。

ちなみに一緒に下りた釣り人と話していると、何と共通の知人がいて、その知人を通じてお互いに名前だけは知っていたことが判明!何という奇遇。「いや~また(共通の知人)と一緒に飲みにでも行きましょう!」といって、お別れしました。

今回は、稚魚放流、イノシシとの遭遇、思わぬ釣果、そして知人の知人(もう知人になりました)との出会いなど盛りだくさんでした!